中堅企業の国際課税リスク(183日ルール)

海外事業が活発な中堅企業において、最も身近でありながら誤解が多いのが、出張者の給与にかかる税務、通称「183日ルール」です。

「1年の半分(183日)を超えなければ、現地で税金はかからない」というフレーズだけが独り歩きしていますが、実はこのルールには強力な「落とし穴」が存在します。これを見落とすと、本人だけでなく会社も現地当局から多額のペナルティを科されるリスクがあります。


1 問題 短期出張なら「常に免税」という誤解

多くの企業では、若手社員やエンジニアを数ヶ月単位で現地へ派遣する際、「183日以内だから、日本で給与を払っていれば現地での申告は不要だ」と判断しがちです。

しかし、現地の税務当局は「滞在日数」だけを見ているわけではありません。もし申告が必要なケースであったにもかかわらず放置していた場合、数年後の税務調査で「過去に遡って個人所得税の未払」を指摘され、無申告加算税や延滞税、さらにはビザの更新拒否といった深刻な事態を招く恐れがあります。


2 根拠 租税条約「短期滞在者免税」の3要件

このルールの根拠は、各国と日本が結んでいる租税条約に規定された「短期滞在者免税」です。実は、免税を受けるためには以下の3つの条件を「すべて」満たす必要があります。

  1. 滞在期間: 暦年または課税年度において、滞在期間の合計が183日を超えないこと。
  2. 支払者: 給与が、滞在国の居住者(現地法人など)ではない雇い主(日本の親会社など)から支払われること。
  3. 負担: 給与が、滞在国にある「恒久的施設(PE)」や「現地法人」によって負担されていないこと。

特に中堅企業のミスで多いのが、3番目の「負担」に関する項目です。 例えば、出張者の給与自体は日本の親会社が振り込んでいても、後でその給与相当額を「経営指導料」や「経費精算」として現地法人に請求(リチャージ)している場合、実質的には「現地法人が給与を負担した」とみなされます。この瞬間、滞在日数が1日であっても、現地での課税対象となるのです。


3 解決策 リスクを未然に防ぐ運用体制

この「183日ルールの罠」にはまらないためには、仕組みとしての管理が不可欠です。

  • 出張日数の厳密なモニタリング 個人の記憶に頼らず、パスポートのスタンプや航空券の記録に基づき、グループ全体で「誰が・どの国に・累計何日滞在したか」を正確に集計する仕組みを作ります。150日を超えた時点でアラートを出すなどの運用が望ましいでしょう。
  • 「給与リチャージ」の慎重な検討 出張者の人件費を現地法人に負担させる(請求する)場合は、その時点で短期滞在者免税が受けられなくなることを認識しなければなりません。現地での個人所得税の源泉徴収や申告業務が発生するため、税務コストと事務負担を天秤にかける必要があります。
  • 出張者の業務内容の明確化 現地法人のための直接的な利益活動(営業や技術提供)なのか、それとも日本親会社のための監督業務(株主としての管理)なのかを明確にし、誰がそのコストを負担すべきかを理論武装しておきます。

まとめ

「183日ルール」は、決して万能な免税パスポートではありません。特に現地法人の設立直後や、プロジェクトが佳境に入った時期は、コスト負担のあり方が複雑になりがちです。

「知らなかった」では済まされないのが国際税務の厳しさです。出張者の活動実態とコスト負担の流れを再確認し、現地のルールに抵触していないか、一度チェックしてみることをお勧めします。


貴社では現在、海外出張者の給与コストを現地法人に請求されていますか? その内容によっては、滞在日数に関わらず申告義務が生じている可能性があります。一度、現在のコスト負担スキームを確認してみませんか?

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