中堅企業の国際課税リスク(PE認定)
中堅企業が海外展開を加速させる際、見落としがちで最もインパクトの大きいリスクの一つが「恒久的施設(PE: Permanent Establishment)の認定」です。
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本来、現地に子会社(法人)を設立していない限り、その国での法人税申告は不要と考えるのが一般的ですが、実態として「拠点」があるとみなされると、遡及して多額の課税を受けるリスクがあります。
1. 恒久的施設(PE)認定リスクの実態
PEとは、事業を行うための「一定の固定された場所」などを指します。中堅企業において特に問題となるのは、以下の2つのケースです。
- 駐在員事務所による活動の逸脱 通常、市場調査や広告宣伝のみを行う「駐在員事務所」は非課税ですが、そこで契約締結の交渉を行ったり、受注活動を支援したりすると、実質的な営業拠点(PE)と判定されます。
- 長期出張ベースのプロジェクト 現地に事務所を構えていなくても、エンジニアやコンサルタントが長期間滞在して建設・据付作業や技術指導を行う場合、滞在期間(通常6ヶ月〜12ヶ月超)によって「建設PE」とみなされます。
2. リスクが顕在化する背景(BEPSの影響)
近年、この判定基準は劇的に厳格化しています。その背景にあるのが、OECDが主導するBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトです。
かつては「契約書への署名さえ日本で行えばPEには当たらない」といった形式的な回避が行われていました。しかし、現在のルール(BEPS防止措置実施条約など)では、「実質的に契約締結において主導的な役割を果たしているか」という実態が重視されます。これまで外国税務当局が行う実態の把握は時間と労力を要することから相当規模でないと認定されにくかったため、中堅企業のPE課税リスクは限定的といえました。しかし、昨今ではデジタル化やデータ連携を駆使して外国企業の活動を捕捉しており、「支店登記をしていないから大丈夫」という理屈は通用しなくなっています。
3. 認定された場合の恐ろしい影響
一度PEとして認定されると、以下のような「負の連鎖」が発生します。
- 遡及課税とペナルティ: 過去数年分に遡り、現地での所得に対して法人税が課されます。さらに無申告加算税や延滞税が重くのしかかります。
- 二重課税の発生: 現地で納税した分を日本で外国税額控除しようとしても、更正期限を過ぎていたり、適用要件を満たさなかったりして、同一所得に二度課税されるリスクがあります。
- レピュテーションリスク: 現地の税務当局から「不誠実な企業」とマークされ、その後の税務調査が厳しくなります。
4. 解決策:リスクの事前診断とコントロール
中堅企業が取るべき対策は、「活動の見える化」と「社内ルールでのバリア」です。
- PE認定リスクの事前診断 進出(予定)国の国内法と租税条約を照らし合わせ、事業活動(出張頻度、業務内容)がPEに該当しないか、専門家による診断を定期的に行います。
- 「準備的・補助的活動」の徹底 駐在員事務所の業務範囲を職務記述書(JD)で明確にし、契約交渉や受注判断には関与させないよう内部の運用を徹底します。
- 出張者管理システムの構築 誰が、どこで、何日間、どのような業務に従事しているかを本社で一元管理し、PE認定のしきい値(183日ルール等)を超えないようにする等人事管理としてもアラートを出す仕組みを整えます。
まとめ
海外ビジネスの成功には「攻め」の営業活動が不可欠ですが、税務においての「守り」を疎かにすると、得られた利益以上の損失を招きかねません。PEリスクを正しく理解し、現地の活動をコントロールすることが、持続可能な海外展開の鍵となります。

